耳が痛いときに考えられる疾患は?
急性中耳炎・外耳炎・上咽頭炎…
「耳が痛いとの訴える患者さんに耳に病変がみられないケースは約50%ある」と耳鼻咽喉科学の正書(標準耳鼻咽喉科学)に記載されています。耳に分布する神経は多様であり、耳及び耳周囲組織あるいは離れた部位の病変がそれらの神経を介して2次性の耳痛を生じるからです。(放散痛といいます)
以下に、「耳が痛い」という場合に考えられる疾患をお伝えします。

「耳が痛い」という症状で耳に原因がある場合
1.急性中耳炎、外耳炎
「耳が痛い」という場合に最も多いのがこの2つの疾患です。耳が聞こえにくくなる症状を伴うと急性中耳炎を疑います。鑑別として、耳介(耳の外側)を引っ張ると痛いのが外耳炎ですが、外耳炎でも重症になると耳が聞こえにくくなるほど外耳道(耳の穴の通り道)が腫れることがあります。
2.鼓膜に接触する硬い耳垢
鼓膜の表面は敏感な部位です。ここに、小さなカケラ状の硬い耳垢が接触している場合があります。音による振動、あくびによる中耳の換気などによって鼓膜は動きますので「耳が痛い」と感じます。「耳で何か音がする」との訴えも多いです。
3.外耳道異物
髪の毛などが縦方向に外耳道に沿って入り込むと、髪の毛の先が鼓膜に触れて「耳が痛い」という症状がおきます。「耳で音がする、あくびをすると耳で音がして耳が痛い」などの症状がおきます。
昆虫などの外耳道異物は昆虫が動くので「耳に何かが入った」とか「耳に虫が入った」という症状で受診されます。昆虫が耳の中で動き、痛みを生じます。
猫に寄生する「ネコハジラミ」など、肉眼で見えないサイズの虫による外耳道異物は、診断が難しいです。いつも同じ耳側で動物と添い寝する人は注意が必要です。シラミが鼓膜表面を移動する際に耳の痛みと音の症状が発生します。
「耳が痛い」という症状でのどに原因がある場合
1.扁桃炎
離れた部位からの「耳が痛い」というケースです。舌咽神経を介して「耳が痛い」という症状がおきます。耳に炎症所見が無く、のどの診察で、扁桃炎が診断されます。
のどの痛み、発熱、リンパの腫れといった、いわゆる「風邪の症状」を伴うことが多いです。
2.上咽頭炎
こちらも、離れた部位からの「耳が痛い」の症状で、「耳が痛い」ケースです。耳に炎症所見が無く、口からの咽の視診でも炎症所見が無い場合、内視鏡(ファイバースコープ)を用いて鼻の奥を診察します。鼻の奥の突き当りの部分が上咽頭で、ここに炎症があれば上咽頭炎と診断します。飲み込むときの痛み(嚥下時痛)を伴うことが多いです。
「耳が痛い」という症状でそのほかの場所に原因がある場合
1.舌辺縁奥の口内炎
離れた部位からの「耳が痛い」の症状です。舌をガーゼでつかんで引っ張り出して診察すると、舌の外側の奥に口内炎がみつかることがあります。先述の通り、耳の周辺に広がる神経の影響で、口内炎はできる部位によって「耳が痛い」が主訴の患者さんがあります。
※ 稀ですが「耳が痛い」という主訴で、口内炎ではなく舌癌や口腔底癌がみつかることがありますので注意が必要です。
2.顎関節症
「耳が痛い」といって耳鼻咽喉科を受診されますが、口を開けた時に痛みが増強します。外耳道に炎症が無く、顎関節部に圧痛(押さえると痛い)があれば顎関節症を疑います。口腔外科的疾患で、耳鼻科では他院をご紹介させていただきます。
3.耳下腺炎
痛みと同時に耳の下の唾液腺である耳下腺が腫れています。耳下腺は食事の時に唾液を排出する臓器のため、唾液を排出するときに耳下腺部の痛みが増強したり、耳下腺がさらに腫れたりします。
※「おたふくかぜ」(流行性耳下腺炎)との鑑別は重要です。
4.舌咽神経痛
耳、のど、頸に異常が無く、かなり激しい痛みが発作的に生じます。無症状の状態から、突然激しい痛み発作が襲ってきます。耳・鼻・咽・頸に異常所見がありません。脳神経学的な疾患です。三叉神経痛(さんさしんけいつう)と同様の病態です。
5.胸鎖乳突筋の耳下起始部の筋肉痛あるいは神経痛
胸鎖乳突筋は首を回す筋肉のひとつですが、いわゆる「くびこり(頸凝り)」をおこす筋肉です。痛みは片側で軽度です。左右どちらか片側の「耳が痛い」という症状で、外耳道、耳下腺や頸のリンパの腫れが無く、 耳の下の筋肉起始部に圧痛(押さえると痛み)がある場合に疑います。
最後に
「耳が痛い」という症状は比較的ポピュラーなものですが、原因は耳のみならず、様々な疾患が考えられます。
耳は自分では確認できず、患者様ご本人では判断が難しいかとは思いますので、お困りの際はお気軽に耳鼻科までご相談ください。