耳がかゆい時の原因と治療

外耳炎や外耳道真菌症など

「耳がかゆい」と感じて耳鼻咽喉科を受診される患者さんは非常に多くいらっしゃいます。

この症状は一見軽く思われがちですが、実際にはさまざまな疾患が関与していることが多く、放置や自己流の処置によって悪化するケースも少なくありません。

耳がかゆい原因と考えられる疾患

外耳道皮膚表面の角質の脱落

もっともよく見られる原因は、外耳道皮膚表面の角質が脱落している状態です。これは、過度な耳掃除によって皮膚の表面が傷つき、薄くなってしまうことによって起こります。特に、耳を繰り返し擦ったり、綿棒や耳かきで刺激しすぎた場合に見られ、外耳道の表面に黄色や透明の体液がにじみ出て湿った状態になります。この体液は「滲出液」と呼ばれ、患者さんは「耳から汁が出てくる」と表現して来院されることが多いです。

耳垢栓塞(じこうせんそく)

また、耳垢が大量に溜まっている「耳垢塞栓」もかゆみの原因となることがあります。耳垢そのものが刺激となり、耳の中に違和感や不快感を引き起こすほか、完全に外耳道がふさがれると「聞こえにくい」という聴力低下の訴えも見られます。

外耳炎

さらに注意が必要なのが「外耳炎」です。耳掃除のしすぎなどで皮膚のバリア機能が失われると、そこから細菌が侵入し、赤く腫れたり熱感を伴ったりすることがあります。外耳炎は初期にはかゆみのみですが、炎症が進行すると痛みを伴い、「耳が痛む」といった訴えに変化してきます。

外耳道真菌症

これは耳の中の湿潤な環境を好むカビ(真菌)が、皮膚の角質が剥がれてしまった状態で急速に繁殖することで発症します。特に耳を触りすぎたり、滲出液が溜まったままにしていたりすることで外耳道が「洞窟」のような高温多湿・換気不良・栄養豊富な状態となり、真菌が一気に増殖します。さらには、耳鼻科で処方された抗生物質入りのステロイド軟膏を自己判断で長期間使用し続けることで、皮膚常在菌のバランスが崩れ、真菌が異常繁殖してしまうこともあります。(※ステロイド軟膏では真菌は駆除できません!)


カビが原因ですので、発症すると1~2日で一気にカビが増殖して悪化します。症状が悪化すると、「すごく耳が痛い」と訴える方が多いのも特徴です。

耳がかゆい状態で耳鼻科に行って良いの?

「耳がかゆいだけで耳鼻科に行っても良いのだろうか」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、結論から言えば 「耳のかゆみ」だけでも耳鼻科の受診して問題ありません。耳のかゆみは、多くの場合外耳道のトラブルが原因であり、早期の段階で専門的な診察を受けることで、重症化を防ぎ、症状を短期間で改善することができます。


特に、耳を触らずにいられないほどのかゆみが続いている場合や、耳の中から汁のようなものが出てくる場合、さらに痛みに変化してきた場合などは、自己判断では改善が難しく、耳鼻科での処置が必要です。

 「耳がかゆい」ことへの治療

耳を触らない

耳のかゆみを訴える患者さんの多くが、「耳をいじりすぎていた」という共通点を持っています。治療の第一歩として重要なのは、「耳を触らない」ことです。耳掃除を頻繁に行う方、水が入った後に綿棒などで耳を何度も触ってしまう方など、物理的な刺激を繰り返すことが発症・悪化のきっかけとなっているケースが非常に多いのです。


かゆみを痛みで紛らわせるように綿棒でこすってしまう方も少なくありませんが、これは逆効果です。まずは耳に刺激を与えず、状態が落ち着くのを待つことが治療の基本です。

 

耳洗浄(耳を洗う)治療

当院では、必要に応じて耳洗浄(耳を洗う治療)を行っております。特に「耳の中から汁が出てきた」「中がジクジクしている」といったタイプの外耳炎や、外耳道真菌症などに対して有効です。この処置では、37℃に温めた生理食塩水(温生食)を使用して、外耳道内の汚れや滲出液、カビなどをやさしく洗浄します。洗浄液の温度をきちんと管理することで、処置中にめまいなどのトラブルが起きることもなく、安心して受けていただけます。


耳の皮膚は非常に繊細で、角質が一度剥がれても2〜3週間で自然に再生すると言われています。この期間、耳をいじらずに清潔な状態を保つことができれば、多くの症状は改善に向かいます。

 

抗生剤や抗真菌薬治療

当院では、耳洗浄を中心とした局所治療を行なっていますが、症状が進行している場合には、抗生剤や抗真菌薬などの薬物治療を併用することもあります。細菌感染には抗生物質、真菌感染には抗真菌薬を用いて、原因となっている細菌や真菌を根本から除去していきます。重症例では、局所処置と内服治療を組み合わせることで、より早期の改善が期待できます。

耳がかゆいとき、イヤホンは問題ないのか?

耳がかゆいと感じている状態で、日常的に使用しているイヤホンをそのまま使い続けてよいのかどうか、不安に思われる方は多いのではないでしょうか。多少の症状であればイヤホンを使用しても問題はないのですが、強い症状の場合(耳だれが出たり、強い痛み、真菌感染などを起こしている場合)は症状を悪化させるリスクがあります。


まず、イヤホンは耳の中に直接接触するため、外耳道に物理的な刺激を与える存在です。すでにかゆみがある状態では、この刺激によって角質の剥がれが進み、さらなるかゆみや炎症を引き起こす原因になります。加えて、イヤホンを長時間使用することで耳の中が密閉状態になり、温度と湿度が上昇します。これにより、真菌(カビ)が繁殖しやすい環境が整ってしまいます。


また、イヤホンの表面には耳垢や皮脂、外気の汚れが付着していることが多く、適切に清掃されていない場合、それがそのまま耳の中に持ち込まれることになります。特に、すでに炎症や傷がある場合には、これが感染源となって症状が一気に悪化することもあります。
したがって、耳にかゆみや違和感がある間は、イヤホンの使用は控えるのが望ましいです。症状が完全に落ち着き、医師の確認が取れてから使用を再開するようにしましょう。また、再開する際には、イヤホンをしっかりと清掃・消毒し、長時間連続で使用しないなどの工夫も大切です。

最後に

先にお伝えしたように、耳のかゆみを訴える患者さんの多くが、「耳をいじりすぎている」傾向があります。人間の耳はベルトコンベアのような構造になっており、正常な状態であれば耳垢も自然に排出されます。そのため、耳掃除は無理にする必要はありません。
耳をいじるのが癖になってしまっている場合は耳鼻科でどんなに治療しても再発のリスクがあります。
症状がある際はもちろん耳鼻科を頼っていただいて問題ないですが、根本的な治療のためにも「耳をさわらないようにする」という習慣を身に着けることも大切です。