開業医が歩んだ「脇役」ではない関わり|一人の患者さんとの25年にわたる信頼関係

あさみ耳鼻咽喉科医院写真1人の患者の一生を診ていくのが主治医の役割ですが、耳鼻咽喉科医とは勤務医でない開業医は脇役であり、スペシャリストとして携わるべきであると考えていました。しかし、長い間開業医をしていると、「そうでもないのかな?」という事例も経験することがあります。

25年以上前から当院かかりつけであった年配の女性患者さんについて書きたいと思います。当時、乳癌に対する恐怖を払拭するために多数の医療機関のドクターショッピングをされていたようです。喉に癌が無いのかが心配で、当院を受診されたことをきっかけに、私と医師―患者関係がはじまりました。私の知り合いの総合病院の他科のドクターにかかっており、何かこの主治医の話に疑問があると、当院を受診されて、専門外である私に相談されるようになりました。私が、相談しやすい雰囲気を作っていたのかもしれません。以後、ご主人の肺癌についても、知り合いであった大学の先生を紹介して手術がうまくいき感謝されました。ご本人は、乳癌完治として10年以上を経てから、腎臓に癌ができた事に疑問をもち、これも相談をうけました。私が勤務医の頃の知り合いだった泌尿器科のドクターが担当医であったので、私もこの先生とのコミュニケーションを阿吽の呼吸でとる事ができ、私と患者さんとの信頼関係が、さらに強くなりました。

腎臓がんについても手術後は順調であったのですが、数年前に肺に転移が見つかり、化学療法を受けられていました。それでも経過が良くなく、肺に水がたまるようになったと報告がてら当院受診をされていました。お子さんは無く、「主人は認知気味となったので施設に入ってもらった」など患者さんから聞きました。変わらず当院に受診されていましたが、ほどなく主治医から余命数ヶ月と宣告を受け、「緩和ケア入院はどうでしょうか?」との相談をうけました。主治医ではない私ですが、「緩和ケアでの最期が楽であると思う」との言葉が自然に出てきました。その後しば

らくして、患者さんは、自分の葬式の段取りなどすべてを姪御さんに託したと私に話をするために、緩和ケア入院当日に受診されました。「先生とはこれでお別れです。ありがとうございました」との言葉に私は思わず患者さんの手を握り、別れの挨拶をしました。このように完璧な自身の最期の振る舞いに、私は尊敬の念をいだかずにいられませんでした。